【本町の弁理士インタビュー】たにだ特許事務所・谷田龍一先生に聞く、中小企業・スタートアップのための特許戦略
昭和27年創業/本町に根を張る、3代続く老舗特許事務所
弁理士・谷田 龍一 先生(立命館大学 工業所有権法授業担当講師)
大阪・本町は、いま「創業のまち」として注目を集めています。司法書士、行政書士、税理士、そして弁理士──事業を立ち上げる際に頼りになる専門家が徒歩圏内に揃い、新しく会社を興そうとする人たちが集まるエリアです。
そんな本町に、昭和27年(1952年)から70年以上続く特許事務所があります。それが、3代目所長・谷田龍一先生が率いる「たにだ特許事務所」です。
「依頼者の発展を願いつつ、何事にも誠実に」
これは、初代から受け継がれているモットー。特許・実用新案・商標・意匠の出願から権利化、そして中小企業の知財戦略まで、本町でビジネスを始める方にとって心強い存在となるたにだ特許事務所を、本町開業ゲート編集部が訪ねました。
特許の世界の奥深さ、中小企業がいま知っておくべきポイント、そして本町という街への思い。じっくりとお話を伺いました。
たにだ特許事務所とは|本町に根を張る、70年続く老舗
昭和27年創業、3代続く大阪の特許事務所
たにだ特許事務所の歴史は、戦後間もない昭和27年(1952年)にまで遡ります。
初代の岩越重雄先生が天王寺で創業し、2代目で北浜へ。そして3代目である谷田先生の代で、平成25年(2013年)頃に現在の本町へとオフィスを構えました。
谷田先生は、こう振り返ります。
「もともと2代目までは北浜にあったんです。私の代で本町に来ました。決め手のひとつは、メインクライアントさんがこちら側に近かったこと。それから、紹介してくださった不動産業の方が『ここがいい感じだよ』と勧めてくれたのも大きかったですね」
70年以上にわたり大阪のものづくりを支え続けてきた老舗が、なぜ本町を選んだのか。そこには、「依頼者との距離を縮める」という明確な意図がありました。
先代から受け継ぐモットー「誠実」という二文字
応接室に入ると、まず目に入る額がありました。そこには、こう書かれています。
「依頼者の発展を願いつつ、何事にも誠実に」
「これは初代が考えたものなんです。私たちの原点ですね」
谷田先生は穏やかに語ります。これは、たにだ特許事務所の3代目を貫く理念であり、谷田先生自身が日々の業務で大切にしている言葉でもあるそうです。
特許は、出願すれば必ず取れるものではありません。新規性、進歩性──いくつもの審査をクリアして、ようやく権利として成立します。そのプロセスには、依頼者と弁理士のあいだの高度な信頼関係が欠かせません。だからこそ、「誠実」という二文字が事務所の根幹に据えられているのです。
「対応の早さも、内容の質も、両方が大事です。どちらが欠けてもいけません」と、谷田先生は語ります。
谷田龍一弁理士のプロフィール|大手事務所からの独立、立命館大学授業担当講師
初代との縁、そして「自分でやる」という選択
谷田先生がこの世界に入るきっかけは、ひとつの偶然から始まりました。初代所長・岩越重雄先生と、谷田先生の高校が同じで、2代目所長・杉本先生と谷田先生の大学が同じだったのです。
「先代の先生とは、普通に友達のように話せる方でした。前所長の代からは、立命館大学の校友会の繋がりもあって、自然とこの世界に入っていきました」
先代の所長から事務所後継者のお誘いを受ける前、谷田先生は別の大手特許事務所に勤務していました。100人を超える規模の事務所での経験は貴重なものでしたが、先代の所長からお声かけ頂いて、自分自身で経営する道を選びました。
「やっぱり、自分でやるほうが、自分の好きなことができますからね」
雇われる側の安定もあれば、経営者としての責任も伴います。それでも、自分の判断で依頼者と向き合い、一件一件の発明と真剣に向き合いたかった。それが谷田先生の選択でした。
立命館大学・授業担当講師として ── 次世代への知財教育
谷田先生は、立命館大学の講師として、「アントレプレナー特殊講義」を担当された後、現在は法学部大学院で工業所有権法の講義を担当されています。
「アントレプレナー特殊講義は、もともとは経営学部の学生向けかと思っていたら、実は学部を問わず受講できるんです。アントレプレナーシップを学びたい学生たちに、特許の取得から判例まで、実務に即した内容を教えていました。現在は、法学部大学院で工業所有権を教えています。」
夕方の事務所での業務を終え、夜は大学のキャンパスへ。決して楽な日々ではありません。それでも、知財の世界の面白さを次の世代に伝えたいという思いが、谷田先生を動かしています。
過去には日本弁理士会支部(現、日本弁理士会関西会) の知財立国サポート委員会副委員長、立命館大学の学校及び地の友会(物会、大阪友会)の役員なども歴任。業界と教育の両輪で、長きにわたり知財業界に貢献してきた人物です。
たにだ特許事務所の専門分野|機械系メーカー特許の専門家
得意分野は「産業機械・機械系メーカー」
たにだ特許事務所が得意とするのは、機械系・産業機械系の特許です。
「化学品や薬品はちょっと専門が違うので、そこは正直にお伝えしています。うちは産業機械系が多いですね。」
長年の付き合いで、大手メーカーからの依頼も継続的にあります。一方で、年に1〜2件の出願をする中小企業や、スタートアップの単発依頼にも応じています。
大手メーカーから町工場、スタートアップまで対応
クライアントの規模によって、進め方が変わるのも、たにだ特許事務所の特徴です。
「大手さんだと、こちらに提案書が来て、それを見て文章を作っていきます。慣れている会社の場合は、長年やっていれば実情がよく分かりますから。
でも中小企業の場合は、こちらから出向いて、実物を見せてもらいながら話を聞くことが多いです。車であちこち行くので、直接会って話したほうが早い。物を見せてもらうほうが、絶対に良いものができます」
クライアントは北は北海道から南は九州にまで及び、ときにはクライアントを訪ねて飛び回る谷田先生。デジタル全盛のこの時代に、あえて足で稼ぐスタイルには、依頼者一人ひとりに向き合う姿勢が表れています。
特許取得の極意|「言葉のセンス」が問われる仕事
新規性と進歩性 ── 特許取得のための2つの要件
特許を取得するうえで重要なのが、新規性と進歩性という2つの要件です。
「新規性は、要するに従来のものと違うこと。新しければ満たされます。 でも、それだけじゃ取れないんです。 進歩性といって、従来のものから容易に思いつかないこと。これが必要になってきます」
問題は、「容易に思いつくかどうか」のグレーゾーンです。「ちょっとな、というケースが結構多いんですよ」と谷田先生は笑います。そこを、いかに言葉の表現で乗り越えるか。これが弁理士の腕の見せどころです。
権利範囲のバランス ── 広すぎず、狭すぎず
「権利範囲を広げすぎると拒絶されやすくなります。逆に狭くしすぎると、簡単に真似されてしまう」
特許の権利範囲は、広ければ広いほど強い権利になりますが、その分、過去に存在する技術と重なってしまい、審査で拒絶される確率が高まります。一方、狭く絞り込めば取得しやすくなりますが、わずかな設計変更で他社に真似されてしまうリスクがあります。
「そこのバランスを取るセンスが、本当に難しいんです」
経験を積むほど、言葉の選び方が変わってくると言います。どう書けば真似されにくいか。どう書けば審査を通るか。発明者本人ですら気づいていなかった「技術的効果」を引き出して、初めてその発明の本質が言葉になるのです。
「この仕事は、結局のところ言葉のセンスなんですよ」
そうおっしゃる谷田先生の表情には、職人としての矜持が滲んでいました。
特許取得までの流れと期間|中小企業なら最短2〜3ヶ月も可能
特許出願から登録までの基本フロー
「特許って、どれくらいの期間で取れるんですか?」
これは、初めて特許を考える経営者の方からよく聞かれる質問だそうです。
特許取得の基本フローは次の通りです。
初回相談(依頼者からの相談、発明内容のヒアリング)
先行技術調査(似た特許がないかチェック)
明細書の作成(弁理士が出願書類を作成)
特許庁への出願(オンラインで申請)
出願審査請求
拒絶理由通知への応答(必要に応じて補正)
特許登録
中小企業向けの早期審査制度を活用すれば最短2〜3ヶ月
「通常は1年かからないくらいですね。中小企業の場合、早期審査制度を使えば、もっと早く取れる場合もあります。条件が揃えば、2〜3ヶ月で登録になることもありますよ」
中小企業や個人事業主、スタートアップにとって、スピードは事業競争力に直結します。早期審査制度の活用も含めて、最適なルートを提案してもらえるのが老舗事務所の強みです。
「とりあえず出願だけしておきたい、というご相談もあります。他社に先に出されてしまうと、後から出しても取れません。タイミングは本当に大事です」
中小企業・スタートアップが知っておきたい特許戦略
「他社に取られたくないものから、まず守る」
特許を「取るか取らないか」の判断軸についても、興味深い話を伺いました。
「特許化は無理かな、と思っていた発明でも、他社が出してきて登録になってしまうケースは結構あるんです。そうなると、自社で使い続けることもできなくなります」
つまり、「自分が取れるかどうか」だけでなく、「他社に取られたら困るかどうか」も重要な判断基準になるということです。
「とりあえず先行調査をして、新規性があれば、出してみる価値はあります。進歩性のグレードによっては、通る場合もありますし、逆に他社の権利化を防ぐ意味でも有効です」
中小企業や個人事業主にとって、自社の独自技術をどう守るか──これは事業の根幹に関わる問題です。「迷ったらまず相談してほしい」というのが、谷田先生のスタンスです。
スタートアップこそ、早めの特許出願を
スタートアップにとって特許は、資金調達やM&Aの局面でも大きな武器になります。
「ベンチャーやスタートアップさんとの接点も、勉強会などを通じて持っています。新しい技術や事業モデルがある段階で、できるだけ早めに相談していただくのが理想ですね」
ピッチ資料に「特許出願済み」と書けるかどうかで、投資家からの評価が変わることもあります。創業期こそ、知財戦略を後回しにしない。これが谷田先生からのメッセージです。
なぜ本町なのか|創業エリアとしての魅力
メインクライアントとの距離、そして街の力
谷田先生は、本町という街についてこう語ります。
「会社を新しく作り、特許を取り、商標を登録する。そういった一連の手続きを、近距離で完結できるのが本町の強みですよね」
本町には、司法書士、行政書士、税理士、弁護士、そして弁理士といった士業が集積しています。新しく会社を立ち上げる際、必要な専門家にすぐにアクセスできる環境は、創業者にとって何より心強い要素です。
本町に集まる士業ネットワークの強み
たにだ特許事務所も、弁護士事務所からの紹介、商工会議所の繋がりなどを通じて、本町の士業ネットワークの一員として活動しています。
「営業はほとんどしていないんです」
そう笑う谷田先生ですが、お客様は途切れません。
「うちは製品を表に出している商売じゃないので、外からは中身が分かりにくい。だから、お客様としては、信頼できる人からの紹介がいちばん安心なんでしょうね」
紹介で広がる信頼の輪こそが、たにだ特許事務所の70年を支えてきた基盤なのです。
谷田先生の素顔|趣味は釣り、月2〜3回は海へ
仕事の話が一段落したところで、ふと話題が趣味の釣りに移りました。これが、想像以上に本格的でした。
「多い時で月に2〜3回は行きますね。朝2時に家を出て、和歌山に5時集合とか。深夜出発、明け方着が基本です」
主に船釣りが中心。ブリは80cm以上、タチウオは1m超の大物を仕留めることも珍しくないそうです。電動リールで10kgを超える魚を引き上げるという話は、聞いているだけで腕が痛くなりそうでした。
季節によって釣れる魚が変わるそうです。春は鯛、メバル、梅雨入り前のイサキ、夏はタコ、イカ、秋は太刀魚、青物(ブリ、メジロ、ハマチ)、鯛等。
「忙しいんですよ、釣りも(笑)」
仕事も釣りも、対象を見極めて、ベストなタイミングで動く。そこには共通する哲学があるように感じました。
本町で開業を考えている方へ|谷田先生からのメッセージ
最後に、これから本町で会社を立ち上げようとしている方々に向けて、メッセージをいただきました。
「自社の技術や商品を守るっていうのは、事業の根幹に関わることです。最初は小さな出願でも、それが将来の競争力になります。他社に先を越される前に、まずは相談してほしいですね」
たにだ特許事務所では、初回の相談から丁寧に話を聞き、出願すべきかどうか、どの範囲で権利化するかまで一緒に考えてくれます。中小企業向けの早期審査制度や減免制度、補助金の活用についても、最適なルートを提案してもらえます。
そして何より、70年続く事務所の蓄積と、3代目所長の確かな目が、新しく事業を始める人にとって心強い味方になるはずです。
まとめ|本町で「言葉のプロ」に出会う
特許とは、技術を「言葉」で守る仕事です。進歩性のグレーゾーンを、先行技術とどう差別化して言語化するか。権利範囲をどう設計するか。そこに、弁理士の真価が問われます。
たにだ特許事務所の谷田先生は、その「言葉のセンス」を70年の蓄積のうえに磨き上げてきた、本町を代表する弁理士のひとりです。「依頼者の発展を願いつつ、何事にも誠実に」という初代から受け継いだモットーは、いまも変わらず事務所の中心にあります。
本町で新しく事業を立ち上げようとしているあなたへ。自社の技術や商品を、商品デザイン(意匠)、商品またはサービスに使用するロゴ、マーク等(商標)を、誰かに先に取られてしまう前に。一度、たにだ特許事務所の扉を叩いてみてはいかがでしょうか。
取材・執筆:本町開業ゲート編集部 取材日:2026年4月27日


